地下鉄・松本両サリン、坂本堤弁護士一家殺害など13事件に問われ、1審で死刑判決を受けたオウム真理教の麻原彰晃こと松本智津夫被告(51)について、最高裁第3小法廷(堀籠幸男裁判長)は15日、控訴趣意書の未提出を理由に控訴を棄却した東京高裁決定を支持し、弁護側の特別抗告を棄却する決定をした。
特別抗告の棄却決定には不服申し立てはできないことから、松本被告の死刑が確定した。27人が犠牲になった未曽有の事件を引き起こした「教祖」の裁判は初公判から10年5か月を経て終結した。
決定は、堀籠裁判長、上田豊三、藤田宙靖、那須弘平各裁判官による全員一致の意見。決定文は同日午後3時半すぎ、東京拘置所の松本被告に送達された。1審で死刑となった被告の控訴審が手続き上の理由で打ち切られ、確定するのは、最高裁に統計がある1966年以降初めて。
松本被告の裁判は、96年4月に東京地裁で初公判が開かれ、2004年2月、死刑判決が言い渡された。控訴審では、弁護側が「被告には訴訟能力はない」と主張して期限内に控訴趣意書を提出しなかったため、東京高裁は06年3月、一度も公判を開かないまま控訴を棄却。弁護側の異議申し立ても同高裁が退けたため、弁護側が最高裁に特別抗告していた。
特別抗告審では、〈1〉松本被告に訴訟能力があるか〈2〉控訴趣意書の未提出にやむを得ない事情があったか〈3〉不適切な弁護活動による不利益を被告に負わせることが許されるか――の3点が争点となった。
決定はまず、訴訟能力について、1審公判での松本被告の発言内容や、死刑判決を受けた日に拘置所で「なぜなんだ。ちくしょう」と叫んだことに加え、脳波検査で異常がないことなどを総合判断し、「訴訟能力はある」と認定した。
趣意書の未提出については、「すでに作成していたのに提出しなかったもので、やむを得ない事情があったとはいえない」と指摘し、「被告と意思疎通が出来なかったことも未提出を正当化する理由にはならない」と述べた。
また、弁護人の行為の結果、被告が裁判を受ける権利を奪われたことについて、決定は、弁護団が被告自身が選任した私選弁護人だったことを重視。「私選弁護人の行為の結果は、不利益なものでも被告に及ぶ」と述べた上で、「被告は自ら弁護人と意思疎通を図ろうとしておらず、責任は被告にもある」と付け加え、死刑の確定もやむを得ないと結論づけた。(2006年9月15日22時22分 読売新聞)
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普通の市民として言うと、やっと結論が出ました。最高裁が最終判断での回答ですから。しかし、被害者遺族の解答は、それぞれ出せたのでしょうか。
事件という類は、およそ残った者が更に公判傍聴時には証人台に立ち、その後も延々と時間消費神経浪費を重ね、それで被害者家族が再会を果たせるものではない。負とか減とか、それがイメージどおりか以上に働く。故に加害者側から、普通の人々でもわかる解答をせめて得たいと欲する。
本日の死刑確定者、彼がその確かな解答を被害者側に提示してみせた、とはおもえない。
松本サリン事件は、直後の報道紙面で近所の庭持ちの主人が疑惑を持たれ、自分も他に思い浮かばず、苦い思いをしたが、この件左様に、尋常では想像出来ぬ犯罪であった。致死量の猛毒ガスが、就寝時間帯に住宅街で散布され、通り魔的に被害者を襲った。改造車まで用意して。坂本弁護士一家殺害事件と同様驚愕したのである。
地下鉄サリン事件は、大都市の網の目に走る通勤通学の乗客、満員のパニックも計算した、これも大それた犯行だった。常軌を逸している。
100回以上も裁判傍聴に通った女医の卵の娘さんの遺族母親。同場所の事件でやはり若い息子さんを失い、彼の墓石に【サリン】と刻んだ遺族母親。墓石は風雪に耐えるものである。いつか誰か、彼の死が本人の過失や罪でなく、事件の被害者であったことを知らしめる。
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松本被告の死刑確定に、遺族や被害者らは15日、それぞれの胸中を語った。
「主人がいなくなってから、死刑確定をずっと待ち続けてきた」――。地下鉄サリン事件で夫を亡くした「被害者の会」代表世話人の高橋シズエさん(59)は、東京・霞が関の司法記者クラブで会見し、こう語った。その上で、「1審で詳細に審理しており、もう十分。控訴審は、弁護団が引き延ばし戦術を展開し、イライラさせられるばかりだった」と述べた。
会見には、同事件でサリン中毒になり、現在も寝たきり状態の浅川幸子さん(43)の兄、一雄さん(46)も同席。「死刑が確定しても私たちの生活は変わらない。被告は衣食住の面倒を国が見てくれるが、私たち家族に何かあったら妹はどうやって生きていけばいいのか」と被害者対策の遅れを訴えた。
松本サリン事件の被害者、河野義行さん(56)は、長野県松本市の施設で意識不明のまま療養する妻澄子さん(58)に、「こんなふうにした首謀者の死刑が確定したよ」と伝えた。澄子さんは目を大きく開け、呼吸を荒らげたという。「刑事裁判としては終着駅でも、被害者としては通過点です」と、河野さんは語った。
坂本弁護士の妻都子(さとこ)さん(当時29歳)の実家(茨城県ひたちなか市)では、父親の大山友之さん(75)が「出るべくして出た決定で、当然のこと。ただ、このまま松本被告の口から真実が明らかにならなくなることにむなしさを感じる」と淡々とした口調で話した。
最高検の横田尤孝(ともゆき)次長検事は、東京・霞が関の検察庁内で会見し、「訴訟手続きの中で、本件の真相解明に十分な立証をしたと考えている」などと述べた。
一方、松本被告の弁護団は15日夜、抗議声明を発表。「決定の根拠は、医学的に誤っている医師の意見書、東京拘置所がねつ造した虚偽の報告書などで、結論が不当であることは明白。最高裁は、松本被告が弁護人と意思疎通できない精神状態にあることをあえて無視した」と批判している。(2006年9月15日読売新聞)