これで年金制度が改善されるのだろうか。きわめて疑問の多い法案内容だ。
政府が今国会に提出した年金一元化法案の柱は二つある。
第一に、会社員の厚生年金と公務員などが加入する共済年金の統合、第二に、パート労働者への厚生年金の適用拡大だ。
だが、いずれにも問題がある。
厚生、共済両年金の統合は、共済側の様々な優遇策を無くし、官民格差を解消することが目的だ。共済年金の低い保険料率を厚生年金にそろえ、「職域加算」と呼ばれる公務員の上乗せ年金を廃止する。それ自体は当然の措置であろう。
疑問なのは、両年金の財政面を統一する手法だ。厚生年金は給付の約5年分にあたる積立金を持っている。このため、共済年金も同じ年数分の積立金を拠出することになった。
ところが共済年金には10年分近い積立金がある。統合積立金を拠出した後に、これまで確定した職域加算分の支給費用を差し引いても、なお7兆円以上が官側に残る。参議院事務局の委託で民間の研究機関が行った試算の結果だ。
これについて厚生労働省は、受給者の平均寿命など流動的な要素が多いため、不確実な見通しの一つに過ぎない、としている。
ならば厚労省も複数の試算を示し、議論の材料を積極的に提供すべきだ。その結果、やはり多額の余剰金が共済年金に残る可能性があれば、統合積立金の負担方式の再検討が必要だろう。
パート労働者への厚生年金拡大策も、内容は“骨抜き”と呼ぶしかない。
現在、パート労働者は基本的に週30時間以上働かないと厚生年金が適用されない。それ以下だと雇用主の企業は年金保険料を負担せずに済むため、パートの正社員化が進まない原因になっている。
今回の改正では基準の労働時間を週20時間以上に引き下げた。これで300万人以上が厚生年金の対象となり、企業にとって、社員をあえてパートにしておく理由が薄れるはずだった。
ところがパート社員の多い流通業界などに配慮して、月収や勤続期間に条件をつけ、中小企業も対象から除いた結果、新たに厚生年金に入れるのは、わずか10〜20万人にとどまる。この程度の適用拡大にどれほどの意味があるだろうか。
今国会で政府は、厚労省関係の法案のうち、社会保険庁改革法案などの成立を優先する方針だ。年金一元化法案が審議される見通しはない。
この際、法案自体をもう一度、練り直したほうがいいのではないか。(読売・社説)