かいふう

近未来への展望や、如何に。

TVの面目躍如.その39。パリのオペラ座で、史上初の歌舞伎公演。

NHK教育「 劇場への招待 −パリ・オペラ座歌舞伎公演− 「口上・紅葉狩」」
パリのオペラ座で史上初の歌舞伎公演。市川團十郎一門による家の芸「勧進帳」と「紅葉狩」を、フランス語による「口上」も。(NHK)
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こんなに興奮して、歌舞伎を観劇したことはない。TVを介してであろうが、気分が今までと違う。
先日某民放TVで、市川團十郎さんの闘病生活を見たので、本人が述懐した『無間地獄』からの生還、そのハラハラが未だ残っていたので、彼が舞台の弁慶が主役「勧進帳」を、今度はドキドキしながら鑑賞したのであった。あの無菌室だろうか、透明なカーテンの向こうで、ひとり死線を苦痛と闇に横たわる彼からは、見得を切りながら重い衣装を纏い花道を力強く去る、それが思い浮かばなかった。
パリのオペラ座には専用花道の敷設はなかったが、それを舞台の長さを目いっぱいとって、見事な引き際を披露してくれた。
あれだけの闘病と再発を克服しての、その一門を率いての「口上」は、それもフランス語で、つくづくサービスに徹する、伝統芸能を背負う、その重さに、代々の時間の長さに、感嘆したのである。
勧進帳」後半の三味線合奏の旋律は、以前聴いたことがあった。えぇ、この演目のBGMとは知らなんだ。
大鼓、小鼓、拍子木、そして三味線、加えて笛。更に長唄。歌舞伎演者との間合い、と息の合った演奏。強いくらい、感じました。物凄い、集中力だと。パリのオペラ座、という格式と伝統に、呑まれてはならぬ、日本の伝統芸能
市川團十郎一門の舞台は、その海外公演を日本演劇史に飾り、それの観客となれたことを、自分は、歴史マニアとしても、誇りにおもいます。
團十郎の弁慶、そして子海老蔵富樫の見得の掛け合いの気迫。難病回復しての競演、それをも顔見世として興行する。そのドラマの総量からいって、こんな豪勢な舞台はもうお目に掛かれない。洗練の力強さは、煩雑通俗なわだかまりを押し流してくれました。
なるほど、能から歌舞伎にしたのが「勧進帳」ならば、観客が庶民の芝居ならば、オペラ座天井桟敷ならぬ、もっとも料金の安い隅のお客までわかるいささか誇張した演技をせねばならぬ。この演目は、顔面白塗りの富樫でも義経でもない、弁慶が主役。それを、生還を果たした團十郎が演じ切った。その席に居たなら、臆面も無く、屋号を呼び掛けたであろう。
歌舞伎を演ずる人の、それを極めた真価を見てしまった。