かいふう

近未来への展望や、如何に。

東京大気汚染訴訟、その対象は約20万人都内ぜんそく患者。

和解は最良の決着だったといえるだろう。裁判の長期化を避け、ぜんそく患者の救済策を早期に実施することができる。

東京大気汚染訴訟で、原告と被告の国、東京都、首都高速道路会社、自動車メーカー7社が、東京高裁の和解案を受け入れた。提訴から11年を経ての全面和解である。

和解案の柱は、各被告の出資による医療費助成制度の創設だ。約20万人とされる東京都内のすべてのぜんそく患者を対象に、治療費の自己負担分を全額補助する。国はぜんそくの予防事業の基金を取り崩し、60億円を拠出する。拠出は、安倍首相の政治判断だった。

乳幼児の健康診断など、全国的な予防事業に充ててきた資金を、東京の患者の治療費として使うことに、疑問の声もある。環境省は、予防事業の実施にしわ寄せが及ばないようにする必要がある。

都内のぜんそく患者約520人が自動車の排ガス、特にディーゼル車から出る汚染物質が健康被害の原因だとして、損害賠償を求めていた。大気汚染訴訟で自動車メーカーが被告になったのは、初めてだった。川崎公害訴訟など、これまでの訴訟では、工場の煙突から汚染物質を排出した企業が被告だった。

解決金の額が、和解の最大の焦点となった。過去の訴訟では、1人当たり約450万〜770万円が、被告となった企業から支払われた。原告は、それらと同等の総額30億円以上の解決金を、自動車メーカー7社に求めた。だが、東京高裁が和解案で示したのは、12億円だった。1人当たり約230万円になる。

高裁は、「ぜんそくは大気汚染以外の原因でも発症する可能性もあり、他の大気汚染訴訟と同列には論じられない」とした。原告の居住地が、都心の幹線道路沿いだけでなく、郊外にも分散している点などを重視した結果だった。現実的な判断である。

1審判決は、一部の原告について、排ガスとぜんそくの因果関係を認めた。道路の管理などに落ち度があったとして、国と都、首都高会社に賠償を命じた。一方、メーカーの責任は問わなかった。

自動車メーカーは「社会的責任を果たす」として、高裁の和解案を受け入れ、解決金の支払いに応じた。これが、全面和解実現の大きな要因となった。環境対策は、企業イメージに直結する重要課題となっているからだ。

和解案には、幹線道路の交差点の立体化促進や、沿道の緑化なども盛り込まれた。国や都は着実に進めてほしい。全面和解を、都心の交通渋滞緩和と環境改善につなげたい。(読売・社説)